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いよいよ阿弥陀如来に会う。
堂内は暗くしてある。
壁画の保護のためだが、すでに剥落も退色も激しい。その壁画を見るための懐中電灯を鏡子さんは持っていた──素人じゃないな。
当時は珍しくなかったという座像の阿弥陀如来。印相(いんぞう・・・指の形)はやはり定印(じょういん)だ。
鏡子さんは正面に正座した。
「妙法蓮華経・如来壽量品第十六~」
あー、はい。
「じーがーとくぶつらい、しょーしょーきょうこっしゅー・・・・・・」
僕も巻き込まれた形で唱和する。
ここは法華経の最重要チャプターであるから、鏡子さんが知らないはずがない。
「・・・・・・そくじょーじゅーぶっしん」
数分で、日常茶飯事みたいに読経が終わった。
「南無阿弥陀仏、とは唱えないわよ。私は日蓮宗だから」
僕も日蓮宗ですが、大分県内では天台宗です。
「節操がないわね。いくら根本経典が同じだからって」
まあ、大乗経典の代表格ですからね。
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また、如来に正対する。
パンフレットには、藤原時代末期の作と思われる、とある。
法華経は、仏に寿命はない、と説く。
ここでなら、それを信じられる。
僕も寿命がない?
前世があり、来世があるとするなら。
前世でもここに来たに違いない。
来世でもここに来るのだろう。
如来は黙したままだ。
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古い映画のように色が戻る
時間がたつとともに胸が痛む
もっと遠くにいたい
──おねがい
遠くの光が怖い
舞いたつ破片(きらら)のように
何度も瞬くせいで
見返す勇気を減らす
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今も心に残る辛い昨日
私みたいな人を抱いたあなた
夏の終わりに決めた
──さよなら
学生通りをゆるく
行き交う人々たちは
みんなが笑顔をつくり
孤独を追い越していく
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